揺れる医学部地域枠制度

やっと全国統一的な医学部の地域枠の制度ができる模様です。

現状の地域枠制度運用

主に地方の国公立大学には『地域枠』という入学選抜経路があります。現役生中心のAO入試型のものもありますし、一般入試の枠として地域枠を設けている大学もあります。

地域枠というのは正式に定義されていませんでした。漠然と『卒業後、10年前後その大学のある都道府県で医師として勤務する必要がある入試制度』というものがあって、細かい運用については各大学が各々行ってきました。

ある大学は地域枠と奨学金がセットになったりする一方、ある大学は奨学金がセットになっていない・・・というものがあります。医学部における奨学金は月10〜30万円くらいのかなりの額になります。そして、卒業後、一定の期間(だいたい受給した時間の1.5倍=9年が相場)を貸出者の指定する地域や病院で勤務することで返済が免除されます。つまり、地域枠であると卒後9年はその地域に縛られるので、奨学金がセットになってるか、なってないかで1,000万円前後の収入の違いが生まれます。どうせ地域に縛れれるなら1,000万円もらいたいのは普通の人の感覚じゃないでしょうか?

地域枠の逃亡者

各大学の卒業者で毎年一定の人数が『地域枠の呪縛』から逃亡します。自分の大学でも毎年2〜3名の逃亡者がいるのを先輩から漏れ伝わってきます。

本来、採用してはいけない地域枠の学生を採用してしまうと、その病院に国からの補助金が支払われないようになっているようです。昔は厚労省が『採用しないように!』という号令だけかけて、あとは病院まかせだったらしいのですが、最近は医学部における就活であるマッチングを行う際に、地域枠は特定のIDが交付され、それをもって逃亡できない仕様になりました(制度導入当初からやるべきだったんじゃないの?と思います)。

しかし、地域枠逃亡裏技(詳しくは知りませんが、1ヶ月だけ働かなきゃいけない地域で働いて、すぐに退職して別の病院で初期研修を再開するとできるみたいです)がようで、毎年逃亡者があとを絶たないようです。

地域枠の学生の声

地域枠の学生が口を揃えていう文句は『法的根拠のない地域枠制度に断固反対する!』です。

確かに法的根拠はないのでしょうが、それでは何故に非地域枠の入試経路で入学しなかったのでしょうか?法的根拠云々の前に、自分自身が非地域枠では合格できないから、比較的簡単な地域枠を選んだのではないでしょうか?『定員がすべて地域枠』のような医学部であれば、その主張はまだ理解できるのですが、そのような大学はありません。

こういうことを言うと『18歳のまだ未熟な社会もしらない高校生の将来を縛るのはかわいそうだ。』のような声が上がってきます。一見もっともそうな意見ではありますが、ほとんどの医学部の学生は親と相談して受験をしていますし、高校生だって地域枠の方が簡単だけど将来の幅が狭められる事くらいは理解できます。確かに医師の社会では将来の幅が狭められるのは非常にストレスなことだと思いますが、それとこれはまた別の話です。

恐らくなのですが、地域枠を逃亡するような人の未来は明るくないでしょう。そういう人は初期研修先の病院でも文句を言っているでしょう。『こんな労働時間が長いと思ってなかった。』、『医師の仕事がこんなに辛いとは思ってなかった。』などなど。

自分と同じ大学の同期でも学生の時点で既に公に『逃亡宣言』している学生もけっこういます。『初期研修2年終わったら速攻で逃亡笑』とか『何とか逃亡してみせる』とか『大学側を説得する』と豪語するものもいます。

逃亡するのに一番適しているのはUSMLEを取得してアメリカで医師として働くのが良いと思います。ここまで苦労してまで逃亡したいならさすがに納得する人も多いと思います。

先日のニュースで『3年目以降の専門医研修で地域から逃亡した者は、逃亡先で専門医要件を満たしても専門医として認めない』というものがありました。逃亡予定の地域枠学生には痛い話だと思います。

今回の地域枠の定義決定や医学部の定員の話し合いの中で、やっと地域枠の学生が逃亡できないような制度になりそうです。確かに今までは曖昧な制度のもとに運用されてきたため『逃亡も正義』というスキを与えていましたが、正式な制度となることで本来の地域のための地域枠になるのではないかと思います。