地方医学部の地域枠の卒業後を考える

地方の医学部のほとんどに『地域枠』が設定されています。地域枠で入学すると卒後9〜12年間はその地域で医師として働く必要があります。

地方の病院事情

初期研修医や後期研修医が勤めるような、地方の基幹病院のほぼすべてはその地域の大学病院の関連病院となっています。例えば、秋田県であれば秋田県内のほぼ全ての基幹病院は秋田大学医学部の関連病院となっています。つまり、秋田県内で医師として働くならば秋田大学医学部の医局に入局しなければなりません。地方といっても都心部や旧帝国大学医学部に近づけば近くほどその旧帝医学部の関連病院も増えてきます。恐らく、秋田県であればいくつかは東北大学医学部の関連病院となっているでしょう。いずれにしても秋田県内では秋田大学か東北大学の医局に入らなければ働くことは難しいでしょう。

どうやら医局というものは入るのは簡単でも出るのは難しいようです。ようやく出ることができても、他の医局に入るのもけっこう難しいみたいです。教授と円満で退局した場合は比較的どこにでも再入局できるみたいですが、喧嘩別れになるとまず他の医局に入るのは難しいようです。教授同士は学会等でつながっていますので、喧嘩別れしたら仲が良い教授が管理する医学部の医局には入るのがまず無理なようです。仲が良くなくても『その人を引き取った』みたいな話が当該教授の耳に入れば、その教授が引き取った教授と『なんでアイツを入局させた!』といって今度は教授同士の仲が悪くなるかもしれません。なので、こういった中途入局はどういう人物かをかなり良く見られると聞いたことがあります。でも、実際は中途入局を難なくこなしている人も一定数います。

卒後9〜12年目の地域枠卒医師

さて、話を地方大学医学部の地域枠に戻します。地域枠は卒後9〜12年はその地域で働きます。だから、3年目には自大学医学部の医局に入局することになります。入局後7〜10年間は大学病院と地域の中核病院を行き来しながら、専門医を取ったり、学位を取ったりします。

無事に専門医も学位もとって医師としても独り立ちできるのが卒後9年目くらいではないでしょうか。その時期に『地域枠のお勤めが終わったので地元に帰ります。』と言えるでしょうか?実際はかなり言いづらいと思います。円満に退局するのも難しいのではないのでしょうか?医局からすれば『立派に一人前にしてあげてすぐ退局されたら苦労が水の泡じゃないか!』という気持ちでしょう。少なくとも数年間は育ててもらった恩を返す必要があるかもしれません。そうすると卒後15年目くらいにやっと退局できる状態にはなると思います。じゃあ、その時、退局したはいいものの、地元の医学部の医局は入局を認めてくれるのでしょうか?できるところもあるかもしれません、しかし、再入局したとしてもそこの医局では組織の一番下になるわけですから、あまり良い思いはできないかもしれません。その医局で人気のない病院でしばらく働く必要があるかもしれません。

つまり何が言いたいかというと『地域枠卒業者がその地域で働くノルマが終わっても簡単にはその地域から出られない』ということです。物理的には出ることは簡単でしょうが、待遇面などを考えるとなかなか踏み出せないのが現状でしょう。実家が開業医で、それを継ぐ予定のひとであれば別だと思います。

一生勤務医として生きていこうとする場合、地域枠の縛りは一生と考えても間違いではないような気がします。合格しやすいからといって地方医学部の地域枠を安易に受験するのはやめた方がいいと思います。地域枠なんて法律的に認められてないから逃げ出してやるとたかをくくって入学し、医学部の高学年になって後悔している人が各学年に何人もいます。