緩和ケア医という働き方

まともに緩和ケアをできる医者って何人くらいいるのだろうか・・・。

NHKスペシャル「患者が“命を終えたい”と言ったとき」

先日上記の番組をみた。

京都ALS患者安楽死事件去年起こったこの事件ともテーマが関連するため非常に興味深く視聴した。

この番組の内容はALS患者やガン末期患者が最終手段として「鎮静」してくれと頼んだ時の医師の葛藤を描いたものである。鎮静しても死ぬわけではないが、意識はなくなる。末期のガンによる痛みの緩和や、日々増していく痛みに対して苦しむ姿をみせたくないために使用するらしい。「鎮静」するには一応のガイドラインがあるようだが、それをどのように運用していくかは難しいようだ。鎮静させることはほぼ死を意味する。本人の寿命で死ぬのか、鎮静により死ぬのかでは重みが違うのであろう。

正直なところ、細かい医学的なところはおぼろげながらしかわからないが、真摯に患者の死と向き合い、葛藤している医師の姿に感動し、涙した。

出演していたのは、神戸で緩和ケアで開業している新城拓也先生と国際医療福祉大学の荻野美恵子先生であった。

新城先生は末期ガンの患者の鎮静を行うか、否かで葛藤していた。患者としては鎮静を希望していたが、先生としてはなるべく鎮静なしでギリギリのとこまで悩んでいた。最終的には先生が鎮静を決断した日に患者の意識が無くなり、翌日死亡した。

鎮静を行うことは病気に負けたことを意味し、医師も患者を間接的に殺したことになる・・・のかもしれない。それならば、ギリギリのところまで踏ん張って鎮静を行わずにすんだら、それは病気に勝ったといえるのかもしれない。

一方、荻野先生のケースはALS患者の人工呼吸装着の問題だった。ALS患者は病気が進行すると、呼吸の筋肉が弱り、そのままでは呼吸ができなくなって死んでしまうという。そのため、時期がきたら人工呼吸器をつけて対処する。今回の患者では家族のみんなに迷惑をかけたくないと言って人工呼吸装着を拒んでいた。しかし、先生の幾度ものアプローチで翻意し、人工呼吸装着となった。

患者–医師間の信頼

新城先生のケースも荻野先生のケースも共通して言えるのは『患者からの絶対的信頼』である。患者のみならず患者家族からも信頼が厚い。こんなに信頼の厚い医師はこれまでリアルでみてきた中ではひとりもいない。しかし、そのほかの医師が信頼が薄いといっている訳ではない。緩和ケアという領域は普通の医療とは違うレベルでの信頼構築が必要ということなのだ。それゆえ、信頼関係構築に相当な時間もかかるだろう。普通の診療の何十倍もの時間をかける必要があるだろう。

緩和ケアでの患者–医師間の関係は本来的で根本的な医療の姿であると思える。患者自身の死を医師に託す・・・というのは医療の本来的な姿であると思う。医学部教育の中でも緩和ケアに関する講義は少しだけあるが、実際の患者と会うことはなく、あくまで教科書的な知識にとどまる。病院実習でも『緩和ケア科』をまわることはない(少なくとも我が大学では)。初期研修でも緩和ケア科をまわることはないと思う。精神科が初期研修で必須になったように、緩和ケア科も必須にしたほうが医学教育的には良いのでは・・・と思いました。