不妊治療の保険適用拡大、体外授精・年齢・回数が焦点https://t.co/gIVkkCGRW5
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) September 21, 2020
不妊に悩む夫婦は意外に多いです。大学病院の産婦人科では不妊治療を行なっていることが多く、患者の多さに驚きを隠せません。菅首相のこの対策は、不妊患者に対してはかなりプラスのビッグニュースなのではないでしょうか?
1.現在保険適用されるもの
健康保険が適用されて治療費の3割負担で受けられる不妊治療は、
- 各種検査(ホルモン検査・精液検査・子宮卵管造影検査等) 1,000〜3,000円
- タイミング法 3,000〜8,000円
- 排卵誘発(注射) 1,000〜3,500円
- 腹腔鏡下手術 140,000〜400,000円
- 腹部レントゲン 約600円
- 子宮卵管造影法 約7,000円
だいたい上記の通りです。これらであれば3割負担ですむので比較的安価ですが、どれか一つだけ行えば良いというものではなく、すべてを組み合わせて行なっていく(腹腔鏡手術はやらない人の方が多いと思う)ので、それなりの額には達します。
2.現在保険適用外のもの
現在、不妊治療の中で保険が適用されないものは以下の通りです。保険適用でないので自由診療となります。自由診療だと病院ごとが自由に値段設定できます。
- 人工授精 10,000円〜30,000円
- 体外受精 200,000円~600,000円
- 顕微授精 250,000円〜500,000円
これは一回につきの値段です。一回で幸運にも妊娠に至るかは未知数です。大学病院でみてきた感覚だと、一回で妊娠する人はほぼ0人でした。少なくとも2~3回は実施していたと思います。また、めでたく妊娠出産に至ったあとに、第二子が欲しい場合、再度これらの治療を行う必要があります。こども一人で300万円くらいかかると考えても良いかもしれません。
ここでひとつ疑問となるのはこれらの現在保険適用外の手技や処置に対する保険点数です。保険適用となるということは保険点数が付与されることになると思います。その点数がどれくらいになるのかが医師(主に不妊クリニック)も患者も気になるところだと思います。保険点数を付与するにはきちんとしたロジックが必要だろうと思います。これらの処置に必要な機械や薬剤などの費用+医師の技術料が基本です。これらを別々で算定するのか、同一で算定するのかも気になります。また、2回目以降の算定も気になります。2回目以降の医師の技術料は1回目の半額、なんてこともあるかもしれません。
そこらへんはただの医学生にはわからないところですが、今の不妊治療の値段を維持したような保険点数だと医療財政をさらに圧迫させるのは目に見えています。なので、不妊治療の保険点数はいまの相場に比べてかなり下げられるような気がします。そうなると、いま町にあるがっぽり稼いでいる不妊治療クリニックは一気に売り上げが下がってしまうような気がします。患者側から考えると、費用は下がるけどどこの不妊治療を行う病院(クリニック)が混雑している、という状況が生まれるような気がします。
3.不妊治療を担保する保険
これは医療保険ではなく民間の生命保険会社の保険です。
この保険のポイントは、
- 三大疾病で死亡すると保険金として300万円。
- 出産すると一人目10万円、二人目30万円・・・と出産一時金がもらえる。
- 特定の不妊治療に5万円(1回目〜6回目)、10万円(7回目〜12回目)を給付。
- 満期時には最大200万円がもらえる。
というところです。
1の三大疾病に対する保険金はこの保険においてはあまり意味をなしません。この保険の主な対象は20〜30代の女性であり、三大疾病で死亡することはほぼ無いといってよいでしょう。
2については一人目10万円、二人目30万円、三人目50万円、四人目70万円、五人目100万円(以降一人につき100万円)の給付が可能です。
3については採卵または胚移植にたいして給付されるようです。
4については何も給付がなければ最大200万円程度、給付があればその分を引かれた金額になります。
この保険はお得か?
この契約が得なのか損なのか考えてみたいと思います。25歳の女性が20年間の月払いで契約したとすると月間の保険料は10,185円になります。35歳時点での払込総額は1,222,200円、45歳満期時には2,444,400円になります。
一般的には35歳くらいを境に不妊率やダウン症児の発生率が高まるといわれています。なので、35歳までに子作りを終えてると想定します。
この保険に入って35歳の時にひとり子供が出産したとすると、払込総額は1,222,200円です。もらえる出産一時金は100,000円です。不妊治療も最大回数行うと1,000,000円の給付です。45歳満期の保険を子供が生まれた35歳時点で解約したとすると解約返戻金があるかもしれませんが、おそらくこのケースでは解約返戻金は0円だと思います(満期での満期一時金が200万円なので、半分の10年の時点では100万円の解約返戻金であり、この額は給付額を上回っているので解約返戻金は0円と推測)。なので、1,222,200円-1,100,000円=122,200円のマイナスになります。これであれば自分で貯金しておいた方がお得になります。
同じような条件でこどもを二人作るとすると(不妊治療を12回で二人の子供)177,800円のプラスになります。こどもが二人以上で多ければ多いほど保険の効果を得ることができます。
上記の設定では35歳までに出産を終えると仮定しました。しかし、いまの時代は40代での出産も増えていますのでこれを検討してみたいと思います。
まずは45歳時点での払込保険料は2,444,400円です。不妊治療を最大行うと仮定すると1,000,000円の給付です。こどもが一人の場合、解約返戻金が379,400円となりますので、2,444,400円-1,000,000円-100,000円-965,000円=379,400円となり、支払った金額が給付を上回ります。こどもが二人の場合、2,444,400円-1,000,000円-400,000円-670,000円=374,400円となります。こどもが三人の場合、2,444,400円-1,000,000円-900,000円-175,000円=369,400円となります。こどもが四人の場合、2,444,400円-1,000,000円-1,600,000円-0円=-155,600円となりやっと支払い保険料を給付金が上回ります。
この保険に入るべき女性
上記の結果は最大12回の不妊治療を行なったと仮定して、その範囲内でこどもが一人、二人出産と仮定しています。なのであくまで概算となりますが、
35歳までに子作りを終わらせる計画の人
→こどもを二人以上出産したい人はお得
45歳までに作りを終わらせる計画の人
→こどもを四人以上出産したい人はお得
そもそも不妊の方の出産率も低いですし、不妊女性でなくても45歳で四人の子供も得るのは難しいです。
となると、20代女性で現在不妊症でなく、将来絶対にこどもを二人以上欲しくて35歳までに終わらせる計画の場合、この保険は入るべき保険であると思います。概算ですが、この女性が不妊症にならず、不妊治療を受けずに35歳まで保険料を払った場合、支払った保険料が給付額を約22万円ほど上回ります。約22万で不妊症へのリスクヘッジをしたことになります。
※保険加入して不妊治療を最大回数行なったものの出産には至らず満期になった場合、支払った保険料が給付額を約44万円ほど上回る計算になります。